1727年、ヴェッツィ窯が閉窯してから、30年の月日が経っていた。
ナタニエル・フリーデリッヒ・ヘヴェルケ(Nathaniel Friederich Hewelcke)は、ドレスデンで磁器の販売店を営んでいたが、1757年に七年戦争でドレスデンの街がプロイセンに占領されると、彼は妻マリア・ドロテア(Maria Dorothea)と共に、ドレスデンを離れ、ヴェネツィア共和国へ避難した。共和国議会は七年戦争の難民として夫婦を政治亡命者と認め、あのヴェッツィの生まれた街、北イタリアのウディネ(Udine)への居住を許可した。
彼がマイセンで働いた経験が有ったか、貿易商としてどの程度の経験があったかは定かでは無いが、彼はその1757年の12月14日、ヴェネツィア政府のチンケ・サヴィ・アッラ・メルカンツィア(Cinque Savi alla Mercanzia)(商業、貿易に関する五賢人)に対して、20年間に渡り、間接税免除で、ザクセン風の様々な磁器を製造する許可を申請した。
1758年3月16日、その許可が下り、ザクセン風の真正磁器の製造から、卸し、小売りまでの事業と、ヴェネツィアと、共和国内の都市に販売店を開く権利、ならびに新しい職人を雇う権利、更にはこの新しいビジネスにおいて、原料から最終産品までヴェネツィアの『V』のマークが付いていれば全て、税金が免除される特権を与えられた。
ウディネ期のヘヴェルケ窯の史料は少ないが、当初理想的な磁土の探索や、その土の浄化処置など、困難を極めた。結局カオリンは、ヴェッツィが1727年に発見した、ヴィチェンツァ(Vicenza)近くのトレット(Tretto)の土が使われた。
またこの年の4月22日、ウディネの街の有力者で、絹織物工場を経営し、市の議員でもある トマーゾ・オルカ(Tomaso Orca)とその兄弟と提携した。
オルカ兄弟は、真正磁器工場の設立の為に必要な資金を準備した。
かくしてヴェネツィアで 2番目、イタリアでは4番目の真正磁器工場 の操業が開始された。
このヘヴェルケ窯では、初めの3年間は、磁器に対する需要もまずまず有り、順調に操業を続けていた。1761年には、ヘヴェルケ窯はより大きな市場を求めて、ヴェネツィアに移転した。
しかしこのヴェネツィアであっても、ザクセン人の経営するこの磁器工場の成功は容易なものではなかった。
例えば1762年にパスクアーレ・アントニボン(Pasquale Antonibon)がバッサーノ(Bassano)で操業を始めた、ヴェネツィアの北西に位置するレ・ノーヴェ(Le Nove)窯との競争が、大きな障害となっていた。
というのもチンケ・サヴィは議会に対して、ヘヴェルケの持つ特権をアントニボンにも与える事を進言した。チンケ・サヴィは両者が共和国内市場で磁器製造を独占するのでは無く、競合する事によりお互いに競争力をつけることを目論んでいた。
(このようにチンケ・サヴィはあるときは外国製品を規制して産業を保護したり、逆に自由競争させたりしながら、ヴェツィア共和国の産業振興を図っていた。)
このような状況でヘヴェルケは、競争相手に競り勝つ為に、新しい出資者を探し出した。そして1763年の始めに、ジェミニアーノ・コッツィ(Geminiano Cozzi)が出資者となった。彼は裕福な起業家で、銀行家、この10年間様々な分野に興味を持ち、ちょうどこの年に、出身地のモデナ(Modena)からヴェネツィアに移って来たところであった。
1763年8月、コッツィの新たな資金が投入され、ヘヴェルケは破産宣告寸前のところを免れた。しかしこの年、結局経営難からヘヴェルケ窯は閉窯となる。ヘヴェルケは七年戦争が終結した事で、磁器製造の事業を諦めて、ザクセンのドレスデンに帰国していった。
ヘヴェルケ窯の作品で現存する者は、すべてヴェネツィア期のものである。
特徴は、真っ白い素地でなく幾らか黄みがかっている。また釉薬がワックスの様にテカテカ光り、表面の不整も見られる。しかし非常に薄造りで、装飾はシンプルである。
窯印は、底に「V」の切り込みが釉薬の上から入れられていて、その字を上からアイアンレッドで「V」と書いている。
この窯の作品は、極めて希少で、おそらく多くの博物館でも所蔵していないと思われる。
Riferimento
La Porcellana Di Venezia Nel ‘700 Vezzi, Hevelcke, Cozzi a cura di Filippo Pedrocco
Le porcellane veneziane di Germiniano e Vincenzo Cozzi da Francesco Stazzi
Italian Porcelain by Francesco Stazzi
Italian Porcelain by Arthur Lane
Eighteen Century Italian Porcelain by Clarele Corbeiller
Dictionary of European Porcelain by Ludwig Danckert
Porcellane Italiana dalla Collezione Lokar con contributi di Andrea Bellieni et al