アルプスを挟んで、イタリアとフランスは常に密接な関係にあった。フランソワ1世(François Ⅰ)の息子のアンリ2世(Henri Ⅱ)に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシス(Catherine de Medicis)は食文化を伝え、フランソワ1世は多くの職人をイタリアからフランスへ招聘した。
陶磁器においても、イタリアの錫釉陶器はフランス各地に広まり、特に17世紀から18世紀にかけて、ムスティエ(Moustiers)窯、マルセイユ(Marseille)窯、更にストラスブール(Strasbourg)窯、ニーダーヴィレ(Niderviller)窯、リュネヴィル窯(Luneville)窯などのアルザスーロレーヌ地域に、多くのファイアンス窯が誕生した。
特にアルザスのストラスブール窯のポウル・アノン(Paul Hannong)(1732年〜)は、それまでの高温で焼き付ける上絵技法、グラン・フュ(Grand Feu)では出来なかった、明るい多彩な絵付けの出来る、低温で焼き付ける画期的な技法、プティ・フュ(Petit Feu)を開発した。
<この窯は後に1751年、ヴィーン窯から来たヨーゼフ・ヤーコプ・リングラー(Josefph Jakob Ringler)の協力で、フランスで初めて硬質磁器の生産を実現している。>
やがてこのファイアンス王国のフランスが、あのメディチ磁器の軟質磁器の系譜をも継承することとなる。
 
17世紀始めより、ルイ14世(Luis ⅩⅣ)の治世では戦争に明け暮れ、バロック文化が花開く一方で、国王への権力が集中し、諸侯、貴族達はヴェルサイユ宮殿に移り住み、贅沢の限りを尽くした。しかしこの様な傾向は、ヨーロッパ全体にあった。1600年以降に設立されたイギリス、オランダ東インド会社はもとより、フランスでも1664年にロリアン(L’Orient)港を建設して東インド会社がほぼ国営の状態で設立され、多くの場合金や銀と引き換えに、東洋の産品を大量に輸入していた。しかしこの流れはこれよりももっと以前より何世紀もの間続いており、常に金や銀はヨーロッパからオリエントやアジアに向って流出し、17世紀末からは金の不足がヨーロッパ全体で深刻化し、特にフランスでは 17世紀中頃より金、銀の流出をくい止めるべく、自国の産業育成、輸入品の国産化に力を入れる様になっていた。更にルイ14世が死去した1715年以降、フランスでは莫大な国の負債が顕在化し、貨幣にする金や銀も慢性的に不足していた。ルイ15世のオルレアン公(Duc d’Orlean)の摂政時代、ジョン・ロー(John Lawスコットランド出身の経済思想家)の改革などが断行されたが、結局状況は更に悪化した。
<日本でも同じような貿易状況があり、金の流出と枯渇傾向が深刻化し、8代将軍徳川吉宗の時代には享保の改革が行われた。日本の金の流出には、交換率の問題もあったが、やはりヨーロッパ同様に輸入超過で、磁器の輸出などよりも、ずっと多くの衣料品を輸入していた。>
 
ルイ14世の治世では、1660年代からオテル・デュ・ゴブラン(Hotel des Gobelins)に置かれた王立の家具工場(La Manufacture Royale des Meubles de la Couronne)で作られた国産の調度品の数々がヴェルサイユ宮殿に納められ、それらが上流階級のモードに大きな影響を与えていた。
またフランス旧体制下では、産業も貿易も常に様々な制限を受けていた。
その為磁器を生産する事や、東洋磁器の模倣、マイセン磁器の模倣、金彩の使用など、様々な事業に認可が必要で、有力な貴族が後ろ盾となって、そういう認可が得られた。
更に、最大の市場であるパリでは、ごく一部のディーラー(今も高級ブランドが軒を連ねるサントノレ通りに集まっていた)が磁器を含む高価な装飾品の取り扱いを独占していた。マーシャン・メルシー(marchands-mercies)と呼ばれる彼らは、単に高級品を転売するだけでは無く、自分の店で売る商品に対して、生産者である工房に対しても働きかけて、新しい流行を開拓し、お互いに競争し合っていた。
 
軟質磁器メーカーは、上流階級の貴族をパトロンとして磁器生産の認可を得て、特権を持った一部のディーラーにしか商品を納入出来ず、自由に販売出来なかった。
 
パトロンにとっては、最先端の成長企業で将来性もあり、成功すれば名誉にもなると考えられていたが、結果的には、逆に歩留まりの悪い軟質磁器は、パトロン無しでは経営が成り立たなかったと思われる。
こういう時代背景の中で、次々とフランスの軟質磁器窯は、設立されていった。 
 
 
 
                                                                                                        
 
                                                                                       France
 
フランス陶磁器/ファイアンスと軟質磁器