Sevres(1756-Present)                                                                                               back
 
Circa 1758
 
Gobelet ‘couvert’ et soucoupe ‘litron’                               Pâte : Porcelaine tendre
カップ『クヴェール』とソーサー『リトロン』   素地  軟質磁器
Peinture :  Rose Bouquet ‘camaïeu carmin’
絵付け:薔薇のブーケ「カーマインの単色画」
Gobelet / Hauteur : 6.1cm, Diamétre : 6.1cm        Soucoupe / Diamétre: 12.1cm
 
Marques peintes : Non             Lettre date :  F en bleu / 1758
 
Marques en creux : Non
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この作品は、蓋付きのカープ・ソーサーである。カーマインの単色で流麗に描かれた薔薇のブーケの絵付けが美しく、蓋の花を象った摘みも愛らしい。絵付けのレベルは非常に高く、一般的な職人のレベルを超えている。
 
カップは所謂、クヴェール型(couvert)で、ソーサーはリトロン型(litron)であるが、この組み合わせは、ロンドンのウォレス・コレクションでも蓋付きカップで見られる組み合わせである。
クヴェールとは蓋と言う意味であるが、カップの底部の曲がり具合で、リトロン型やカラブル(Calabre)型と区別されるが、必ずしも蓋は必須ではない。
ハンドルは、リトロンや、クヴェールなどの背の高いカップで用いられる耳型のハンドル。
大きさは全部でスリーサイズが作られたが、この作品はカップ、ソーサー共にセカンドサイズである。
 
しかしこの様な蓋付きカップが何を飲む為に使われたかは、一概には言えない。
この時代のフランスでは、カフェ、テー(緑茶か紅茶)、ショコラの3種類の飲料が飲まれていたが、一般的にはカップはその飲料を特定していなかった。つまり一見ティーカップであっても、どの飲料も飲まれていた。
このカップは蓋付きであるから、飲料が冷めにくく、ショコラ向きだと思われるが、販売記録によると、1760年に制作されたデジュネ(déjeuners)セットである「デュプレシー」(Duplessis)では、ティーポット(テイエル/théière)とティーキャニスター(テー・カルテューシュ/thé cartouche)と共に販売されており、明らかにテー用である。またマーシャン・メルシーのラザール・デュヴォウ( Lazare Duvaux)の記録によると、1754年にポンパデュール侯爵夫人が48リーヴルで購入した蓋付きのカップは、カフェ用であると記録されている。
因みにこの3種類の飲料で一番高価で格の高い飲料は、ショコラであった。
 
またこの作品の様に、単色のカーマインで薔薇のブーケを描いた有名なディナー、デザート・サーヴィスにフォンテーヌブロー・セルヴィス(Le Service Camaïeu Carmin de Fontainebleau)がある。
このセルヴィスはルイ15世(Louis ⅩⅤ)の命によって、1756年から制作されたもので、王が休日にフォンテーヌブローの居室で過ごす時に使用する為に制作された。そして1756年より、ルイ15世の治世の間中制作され、次ぎのルイ16世(Louis ⅩⅥ)の治世でも引き継がれ、更に制作され続けた。その為に、多くの絵付け師がこのセルヴィスの制作に携わっている。
王室が購入したセーヴル磁器の中では、比較的シンプルな装飾ではあったが、当時このカーマインと金彩の食器セットは非常に高価なものであった。
 
2006年から2007年に、パリの国立セーヴル陶磁器ミュージアムで、このセルヴィスの展覧会が開かれた。その時のカタログで、時代を追ってこのセルヴィスの絵付けが比較されているが、1756年当初の絵付けでは、やはりこの作品の様に、ロココの時代を反映して、非常に流麗な薔薇のブーケが描かれている。
このカタログでは、1756年のこのセルヴィスの絵付け師7人と、絵付け師不明の絵付が掲載されている。
シンプルなディナー皿の絵付けで、
❶絵付け師不明の一点
❷シャルル=ルイ・メロウ(Charles-Louis Méraud)(Mark : S)
❸マチュー・フーリ(Mathieu Fouré )(Mark : Y)
❹フランソワ・ビネ(François Binet)(Mark : 十)
❺ジャン=バティスト・タンダール(Jean-Baptiste Tandart)(Mark : ・・・)
❻ジャン=バティステ=マニュエル・ヴァンディ(Jean-Baptiste-Emmanuel Vandé)(Mark : VD)
❼アントワーヌ=テューサン・コルナイユ(Antoine-Toussaint Cornaille)(Mark :
❽フランソワ・ル・ヴァヴァッサー(François Le Vavasseur)(Mark : W)
らの作品が掲載されている。
この蓋付きカップの絵付けをこれらの作品と較べた所、残念ながら❷から❽の既知の絵付け師の作ではなく、絵付け師不明の作に一番近い作風であるように思われる。
絵付け師の同定の意味では残念だが、一番絵付けが素晴らしいのは❶であろう。
 
この様に絵付け師のマークが完全に欠如している場合、取るに足らない些細な絵付けであったり、多くのサーヴィスの中の小さいピースでサインを省略されていたりすることが最も多い。
しかしこの作品や、フォンテーヌブロー・セルヴィスの1756年の流麗な作品に見られる様な水準の高い作品にサインが無い場合、その時の絵付け工房の主任の手による絵付けである可能性が考えられる。
何故なら絵付け師や、金彩師などの職人のマークは、その仕事のレベルを管理者がコントロールする目的で入れられている。勿論、そのマークによって一人一人の職人の芸術的な意識を高める結果にもなったが、あくまでも管理者が水準を維持する為に入れていたものである。
したがってそのセクションの管理者が絵付けを行った場合、わざわざマークを入れる必要性は生じない。
またこの時代のセーヴル磁器の顧客は、現代のコレクターとは違って、絵付け師のサインが誰のモノであるかなど、全く知らなかっただろうし、そのような所には目がいかなかったと思われる。